Webサイトを作るとき、これまでは「見た目が整っているか」「スマートフォンで見やすいか」「更新しやすいか」「検索されやすいか」といった点が重視されることが多かったと思います。
もちろん、それらは今でも大切です。
ただ、最近はそこに加えて「アクセシビリティ」という観点も、少しずつ重要になってきていると感じています。
とはいえ、Web制作に関わる人であれば耳にする機会が増えてきた一方で、Webサイトを依頼する側の方にとっては、まだ少し距離のある言葉かもしれません。
「アクセシビリティって、障害のある方向けの特別な対応ですよね?」
「うちの会社のサイトでも必要なんでしょうか?」
「対応すると費用が大きく増えるのでは?」
そんなふうに感じる方も、少なくないのではないでしょうか。
この記事では、これまでWebアクセシビリティをあまり意識してこなかった方に向けて、なぜ今後は少しずつでも考えていった方が良いのか、またWebサイトのリニューアル時に要件として取り入れる意味について書いてみたいと思います。
Webアクセシビリティとは何か
Webアクセシビリティとは、簡単に言うと「できるだけ多くの人が、Webサイトの情報や機能を利用できるようにすること」です。W3CのWCAG 2 Overviewでも、Webコンテンツを障害のある人にとってより利用しやすくするための国際的な標準として説明されています。
たとえば、目が見えづらい方がスクリーンリーダーで内容を読み上げる。マウスを使うことが難しい方がキーボードだけで操作する。聴覚に障害のある方が動画の字幕で内容を理解する。そういった場面を想像すると、アクセシビリティの必要性はわかりやすいかもしれません。
ただ、アクセシビリティは「障害のある方だけ」のためのものではありません。
たとえば、
- 屋外でスマートフォンを見ていて画面が見づらい
- 片手がふさがっていて操作しづらい
- 小さな文字が読みづらくなってきた
- 動画を音声なしで見たい
- フォームの入力エラーがわかりにくくて困る
- ボタンが小さくて押し間違える
こういった経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。
つまりアクセシビリティは、特定の誰かに向けた特別対応というよりも、Webサイトそのものを「より使いやすく、伝わりやすくするための品質」と考えた方が近いと思います。
昔のWebサイトでは、あまり意識されてこなかった
少し前までのWeb制作では、アクセシビリティが十分に意識されていないことも多くありました。
画像に代替テキストが入っていない。見出し構造が整っていない。キーボードだけでは操作できない。色だけで重要な情報を伝えている。文字と背景のコントラストが低い。PDFが読み上げに対応していない。
こういった問題は、今でも古いサイトではよく見かけます。
ただし、アクセシビリティの考え方自体が最近生まれたわけではありません。W3CのWCAG 1.0は1999年に勧告され、日本でも2004年にWebコンテンツ向けのJIS X 8341-3が制定されています。現在は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のガイドラインなどから関連情報を確認できます。
つまり、基準や考え方は以前から存在していました。
それでも実際の制作現場では、デザイン、納期、予算、更新性、SEOなどが優先され、アクセシビリティは「できれば対応するもの」「公共機関向けのもの」として扱われがちだったのではないかと思います。
今は少し状況が変わってきている
現在は、Webアクセシビリティを取り巻く状況が変わってきています。
国際的には、Web Content Accessibility Guidelines、いわゆるWCAGが広く参照されています。2023年にはWCAG 2.2がW3C勧告となり、スマートフォン操作や認知面への配慮など、今のWeb利用に合わせた観点も追加されています。
日本では、JIS X 8341-3:2016がWebアクセシビリティの基準として参照されています。また、デジタル庁も「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を公開しており、行政だけでなく、事業者にとっても参考になる内容になっています。
さらに、2024年4月1日からは 改正障害者差別解消法 により、事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。
もちろん、これは「すべての企業サイトが今すぐ完全にWCAGへ準拠しなければならない」という単純な話ではありません。ですが、企業や団体がWebサイトを通じて情報提供や手続き、問い合わせ、採用、資料請求などを行っている以上、アクセシビリティは無関係とは言いづらくなっています。
少なくとも、これから新しくWebサイトを作る、あるいはリニューアルするのであれば、最初から要件に入れておく方が自然な時代になってきていると感じます。
コーポレートサイトこそ、アクセシビリティを考えたい
アクセシビリティの話をすると、ECサイトや行政サイト、公共性の高いサービスを思い浮かべる方も多いかもしれません。
ただ、個人的にはコーポレートサイトこそ、アクセシビリティを考える意味が大きいと思っています。
コーポレートサイトには、会社情報、事業内容、ニュース、採用情報、問い合わせ、IR情報、資料ダウンロードなど、さまざまな情報が掲載されています。
これらは、企業が社会に向けて開いている基本的な接点です。
もし問い合わせフォームが使いづらかったら。採用ページの情報が読みづらかったら。重要なお知らせが画像だけで掲載されていて、読み上げでは内容が伝わらなかったら。PDFの資料がうまく読めなかったら。
その時点で、知らないうちに誰かを遠ざけている可能性があります。
しかも、その「誰か」は必ずしも特別な人ではありません。高齢の方、スマートフォンで見ている方、一時的にけがをしている方、音声を出せない環境にいる方、急いで情報を探している方。いろいろな状況が考えられます。
Webサイトは、企業の姿勢が見える場所でもあります。
アクセシビリティに配慮されているサイトは、「この会社は、情報をきちんと届けようとしている」という印象につながります。逆に、見た目は綺麗でも使いづらいサイトは、少しもったいないですよね。
アクセシビリティは、見えない機会損失を減らす
アクセシビリティ対応は、どうしても「追加コスト」として見られがちです。
ただ、少し見方を変えると、これは機会損失を減らす取り組みでもあります。
たとえば、問い合わせフォームがキーボードで操作しづらい場合、そこで問い合わせを諦める人がいるかもしれません。採用情報が読みづらければ、応募前に離脱する人がいるかもしれません。資料請求の導線がわかりづらければ、検討候補から外れてしまうかもしれません。
しかも、こうした離脱は表に出にくいです。
「フォームが使いづらかったので問い合わせをやめました」と連絡してくれる人は、ほとんどいません。多くの場合、静かに離脱して終わりです。
だからこそ、アクセシビリティは「困っている人から声が上がったら対応する」だけではなく、最初からある程度想定しておくことが大切なのだと思います。
SEOや使いやすさとも重なる部分が多い
アクセシビリティというと、専門的で難しいものに感じるかもしれません。
実際、厳密に対応しようとすると専門知識は必要です。WCAGやJISの達成基準をきちんと読み解くには、それなりの理解も求められます。
ただ、基本的な考え方の多くは、普段のWeb制作で大切にしていることとも重なります。
たとえば、
- 見出しを正しく使う
- リンク先がわかるテキストにする
- 画像だけで情報を伝えない
- 文字を読みやすくする
- フォームのラベルをわかりやすくする
- エラー内容を具体的に伝える
- スマートフォンでも操作しやすくする
これらは、アクセシビリティのためだけでなく、SEOやユーザビリティの面でも大切です。
つまり、アクセシビリティ対応は「別枠の特殊な作業」というよりも、良いWebサイトを作るための基本に近い部分が多くあります。
完璧を一度に目指さなくても良い
とはいえ、いきなり「WCAGのすべてを満たしましょう」と言われると、依頼する側としては身構えてしまうと思います。
費用はどれくらい増えるのか。何をどこまでやれば良いのか。今のサイトは全部作り直さないといけないのか。
そう感じるのは自然です。
個人的には、最初から完璧を目指すよりも、まずは重要な接点から改善していくのが現実的だと思います。
たとえば、
- トップページ
- 会社情報
- 問い合わせフォーム
- 採用ページ
- よく読まれるサービスページ
- 資料請求やダウンロードページ
- 重要なお知らせ
- PDF資料
こういったページから優先して確認するだけでも、かなり意味があります。
また、新規制作やリニューアルのタイミングであれば、最初から設計に入れることができます。後から直すよりも、デザインや実装の初期段階で考慮した方が、結果的にコストも抑えやすいです。
アクセシビリティは、公開直前にチェックリストだけでなんとかするものではなく、企画、設計、デザイン、実装、運用の中に少しずつ組み込んでいくものだと考えると良いでしょう。
依頼する側が理解していることが大切
Webアクセシビリティは、制作側だけが頑張れば実現できるものではありません。
なぜなら、予算、納期、優先順位、掲載する原稿、画像、PDF、CMSの運用ルールなどを決めるのは、多くの場合、依頼者側だからです。
たとえば、制作側が「この画像には代替テキストが必要です」と伝えても、依頼者側がその意味を理解していなければ、運用の中で抜け落ちてしまいます。PDFを大量に掲載する運用であれば、そのPDF自体のアクセシビリティも考える必要があります。
つまり、アクセシビリティは制作時の一時的な対応ではなく、運用を含めた継続的な品質管理でもあります。
依頼者側が「アクセシビリティという観点も必要なんだな」と理解しているだけで、制作の進め方は大きく変わります。
発注時に要件として入れる。デザイン確認時に読みやすさや操作しやすさを見る。CMS更新時のルールに含める。PDFや画像の扱いを見直す。
こうした小さな積み重ねが、結果的に使いやすいサイトにつながっていきます。
リニューアル時に入れておきたい観点
これからWebサイトをリニューアルするのであれば、最初の段階でアクセシビリティについて話題に出しておくことをおすすめします。
たとえば、制作会社や担当者に以下のようなことを確認してみると良いと思います。より具体的に検討したい場合は、デジタル庁のウェブアクセシビリティ方針のように、対象範囲や目標レベルを明文化している例も参考になります。
- アクセシビリティをどの程度考慮して制作できるか
- JIS X 8341-3:2016やWCAGをどのように参照するか
- 色のコントラストや文字サイズを確認するか
- キーボード操作の確認を行うか
- フォームの使いやすさを確認するか
- 画像の代替テキストをどう運用するか
- PDFや動画を掲載する場合、どのような配慮が必要か
- 公開後の更新で気をつけることは何か
ここで大事なのは、最初から難しい専門用語をすべて理解することではありません。
「誰が、どんな状況で困る可能性があるのか」
「その困りごとを、設計や運用でどこまで減らせるのか」
この視点を持つだけでも、かなり違ってくるはずです。
アクセシビリティは、届けるための設計
Webサイトは、ただ公開すれば情報が届くわけではありません。
見つけやすいこと。読みやすいこと。操作しやすいこと。理解しやすいこと。必要な行動まで進めること。
それらが揃って、ようやく「情報が届く」と言えるのだと思います。
アクセシビリティは、特別な誰かのためだけのものではありません。企業が届けたい情報を、届けるべき人にきちんと届けるための設計です。
今すぐすべてを完璧にする必要はないかもしれません。
ただ、これからWebサイトを作る、リニューアルする、運用を見直すのであれば、アクセシビリティという観点を少しでも要件に入れてみる。その一歩だけでも、未来の使いやすさは変わっていくと思います。
これまであまり意識してこなかった方にとって、考えるきっかけになれば嬉しいです。













