生成AIを業務で試してみたいと思っても、「では、自社のどの業務から使えばよいのか」で迷うことがあります。
最初の候補は、「AIにできることが多そう」という理由だけで決める必要はありません。
棚卸し済みの業務から候補をいくつか挙げ、頻度、所要時間、入力情報、確認方法、誤りの影響、導入・検証コストを比べてみます。そのうえで、確認まで含めて小さく試せる業務から始めるのが、本記事で提案する進め方です。
まだ自社の業務一覧を整理できていない場合は、先に中小企業が生成AIを導入する前に、最初に整理したい業務を参考にしてください。本記事では業務棚卸しの方法そのものは扱わず、整理した業務から生成AIの活用候補を見つけるところから始めます。
まず「AIにできるか」ではなく、候補になりそうな業務を探す
最初から「この業務はAI向きか」と判断しようとすると、候補を絞りにくくなります。
まずは棚卸し済みの業務を見ながら、例えば次のような処理が含まれていないか探してみてください。
- 文章の下書きを作る
- 長い情報を要約する
- 情報を分類する
- 必要な情報を抽出する
- 複数の情報を比較する
- 定型的な文面や資料のたたき台を作る
ここでは、該当する業務を3件程度拾えれば十分です。この段階では「AIに向いている」と決めるのではなく、比較する候補を作ることが目的です。
また、業務全体を生成AIへ任せる必要もありません。
例えば架空の業務として、「毎週届くアンケート回答から共通する意見を整理する」「打ち合わせメモから社内共有用の下書きを作る」「複数の商品資料から比較表のたたき台を作る」といった一部分だけを候補にする方法もあります。
業務そのものではなく、「この工程だけなら試せないか」と分けて見ると、候補を作りやすくなります。
6つの観点でAI活用候補を比較する
候補を3件ほど挙げたら、次は横並びで比較します。
本記事では、次の6つを比較材料として使います。
- 頻度
- 所要時間
- 入力情報
- 確認方法
- 誤りの影響
- 導入・検証コスト
これは政府や公的機関が定めた公式の評価基準ではありません。この記事では、自社で最初に試す業務を比べるための6つの観点として使います。
頻度と所要時間を見る
まず、その業務がどの程度の頻度で発生し、どの程度の時間を使っているかを書き出します。
例えば、
- 毎日発生する
- 毎週発生する
- 月に数回発生する
- 1回の処理にある程度の時間がかかる
といった形で構いません。
ただし、頻度が高い業務や時間のかかる業務が、そのまま最優先になるわけではありません。
AIを使うための準備や、結果を確認する時間も必要です。今の作業時間だけではなく、試行から確認まで含めて扱える業務かを見ておきます。
AIへ渡す入力情報を整理できるかを見る
次に、「この業務を生成AIで処理するとしたら、何を入力するのか」を考えます。
例えば、元になるメモ、文章、回答一覧、資料などです。
確認したいのは、
- 必要な入力情報を明確にできるか
- 毎回必要になる情報が大きく変わらないか
- 慎重に取り扱うべき情報が含まれていないか
といった点です。
入力情報を整理しやすいことだけでAI利用に向いているとは言えませんが、試行するときに「何を渡せばよいのか」が分からない業務では、検証自体も複雑になります。
個人情報や企業の機密情報が含まれる場合には別の注意が必要です。この点は後ほど詳しく扱います。
出力をどう確認するか決められるかを見る
生成AIの結果を利用するときは、「どこを、何と照らし合わせて確認するのか」も候補ごとに考えます。
例えば、
- 元資料と照合できる
- 必要な項目が揃っているか確認できる
- 事実関係を既知の情報から確認できる
- 最終判断を担当する人を決められる
といった確認方法です。
生成AIの利用すべてに、同じ人手確認を置かなければならないという意味ではありません。
政府のAI事業者向けガイドラインでも、人間の介在は一律ではなく、利用目的や影響、出力の信頼性・不確実性などを踏まえて必要性や方法を考えるという整理がされています。
そのため、用途や誤りの影響に合わせて、必要な確認方法を決められるかを見ておくことが重要です。
確認のために元の業務と同じくらいの手間が必要になるのであれば、それも候補を比べる材料になります。
誤ったときの影響を考える
生成結果が間違っていた場合に何が起きるかも考えます。
例えば、
- 後から簡単に直せるか
- 社内だけで影響が収まるか
- 顧客へ直接影響するか
- 取引や重要な意思決定につながるか
- 誤りそのものを発見しやすいか
といった違いがあります。
生成AIの応答には不正確な内容が含まれる可能性があります。
政府のAI事業者向けガイドラインでは、想定される被害の大きさと発生可能性を踏まえてリスクを捉え、それに応じた対策を取るリスクベースアプローチが基本的な考え方として示されています。
記事の6つの評価項目そのものが政府の基準というわけではありませんが、候補を選ぶときにも、誤りが起きた場合の影響を無視せずに比較するという考え方は参考になります。
導入・検証コストまで含めて比べる
「AIを使えば作業が速そう」という部分だけを見るのではなく、試すために必要な手間も含めます。
例えば、
- 入力情報を整える
- AIへの指示を準備する
- 出力を確認する
- 必要に応じて修正する
- どのように試行するか決める
といった作業です。
AIによる処理そのものが短時間でも、その前後に大きな作業が発生すれば、業務全体の負担が減るとは限りません。
生成にかかる時間ではなく、準備・確認・修正まで含めた一連の作業で比べてみてください。
最初の候補から外す、または慎重に試したい業務
候補を探すときには、「何に使えるか」だけでなく、最初の試行では優先度を下げた方がよい条件も確認します。
ここで挙げる条件は、該当すれば生成AIを使ってはいけないという禁止一覧ではありません。必要な管理や確認を用意できるかによって判断は変わります。
個人情報を入力する可能性がある業務
個人情報を含む業務を候補にするときは、単に生成AIへ入力できるかどうかだけで判断しないようにします。
個人情報保護委員会は、事業者が生成AIへ個人情報を入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内であるかを確認するよう注意喚起しています。また、本人同意なく応答生成以外の目的で扱われる可能性がある場合には、提供事業者によるデータの利用条件などを十分に確認する必要があります。
したがって、候補に個人情報が含まれる場合には、
- その利用が利用目的の範囲内か
- 利用するサービス側でデータがどう扱われるか
- 必要に応じて利用規約やプライバシーポリシー等を確認できているか
といった条件を確認します。
「個人情報だからすべて生成AIへ入力できない」と一律に決めるのではなく、扱う情報と利用条件を確認して判断する必要があります。
企業の機密情報やノウハウを含む業務
企業の機密情報は、個人情報とは別の論点です。
例えば、
- 社内の機密情報
- 企業のノウハウ
- 未公開情報
- 知的財産に関係する情報
などを扱う場合があります。
AI事業者向けガイドラインの別添では、AIへの入力や出力を通じて、個人データだけでなく企業のノウハウ、知的財産、機密情報などが漏えいするリスクも示されています。外部サービスやデータ連携まで含めて、情報がどのように扱われるかを確認する必要があります。
そのため、個人情報とは分けて、社内でどの情報をAIへ渡してよいのかを確認することが必要です。
また、「有料版だから」「法人向けだから」という理由だけで、機密情報を安全に扱えると判断することもできません。利用するサービス、契約、設定などの条件を個別に確認する必要があります。
高い正確性が必要で、誤りを見つけにくい業務
もう1つ注意したいのが、間違ったときの影響が大きいうえに、その間違いを発見しにくい業務です。
例えば、
- 出力の正誤を確認する手段がない
- 確認に非常に大きな手間がかかる
- 誤りが顧客や重要な判断へ直接影響する
- AIの結果をそのまま確定情報として扱うことになる
といった条件です。
今回参照した資料から、「高い正確性が必要な業務では法律上必ず人間が確認しなければならない」という一律の要件は確認されていません。
一方で、生成結果には不正確な内容が含まれる可能性があり、リスクの大きさに応じて対策を考える必要があります。そのため、影響の大きい業務では、責任者や一次資料による確認を残すことも実務上の選択肢になります。
最初の試行では、誤った結果を見つけやすく、問題があったときの影響を限定しやすい候補を優先する方が、結果を評価しやすくなります。
架空の3業務を比較して、最初に試す1件を選ぶ
ここからは、架空の小規模事業者を想定して比較してみます。
以下の3業務はすべて説明用の架空例であり、オレインデザイン、筆者本人、実在する顧客や案件の業務ではありません。
- 候補A:社内打ち合わせメモから共有文の下書きを作る
- 候補B:問い合わせ内容を分類し、傾向を整理する
- 候補C:顧客へ送る重要な回答文を完成させる
まず3件を6つの観点で並べる
架空の条件を設定すると、例えば次のように整理できます。
| 評価観点 | 候補A:社内共有文の下書き | 候補B:問い合わせの分類 | 候補C:顧客への重要な回答文 |
|---|---|---|---|
| 頻度 | 繰り返し発生する設定 | 繰り返し発生する設定 | 必要なときに発生する設定 |
| 所要時間 | メモを整理して文章化する作業がある | 複数の問い合わせを見て分類する作業がある | 内容を確認しながら回答を完成させる作業がある |
| 入力情報 | 社内打ち合わせメモを使う | 問い合わせ内容を使うため、含まれる情報の確認が必要 | 顧客情報や案件情報を含む可能性があり、慎重な確認が必要 |
| 確認方法 | 元のメモと下書きを照合できる | 元の問い合わせと分類結果を照合できる | 内容の正確性や対外的な表現を確認する必要がある |
| 誤りの影響 | 社内共有前に修正できる設定 | 分類結果の利用方法によって影響が変わる | 誤った内容を送信すると顧客へ直接影響する設定 |
| 導入・検証コスト | 少数のメモを使って試しやすい設定 | 情報の取扱いや分類方法を先に決める必要がある | 情報管理と内容確認の負担が比較的大きい設定 |
この表では点数を付けていません。
重要なのは合計点を作ることではなく、どの条件なら小さく試せて、結果を確認できるのかを比較することです。
候補Bについても、問い合わせ内容に個人情報などが含まれるのであれば、実際に試す前に情報の取扱いを確認する必要があります。
最初に試す1件を決める
この架空条件であれば、最初の候補としては「候補A:社内打ち合わせメモから共有文の下書きを作る」を選びます。
理由は、「この種類の業務が生成AIに最も向いているから」ではありません。
今回設定した条件では、
- 繰り返し発生する
- 必要な入力を整理しやすい
- 元のメモと照合できる
- 共有前に内容を確認できる
- 誤りがあっても影響する範囲を比較的小さくできる
- 少ない件数から試行できる
という条件が揃っているためです。
反対に候補Cは、完成した文章がそのまま重要な対外回答になる設定です。誤りの影響が大きく、正確性を確認する負担も大きいため、この3件の中では最初の試行候補として優先度を下げます。
これはあくまで今回の架空条件での判断です。
「打ち合わせメモはAI向き」「顧客対応はAI不向き」と業務の種類だけで一般化することはできません。 同じ業務名でも、扱う情報や確認方法、失敗したときの影響によって判断は変わります。
自社の業務を3件挙げて、最初の1件を決める
ここまで読んだら、棚卸し済みの自社業務から候補を3件だけ挙げてみてください。
それぞれについて、次の6項目を書き出します。
- 頻度
- 所要時間
- 入力情報
- 確認方法
- 誤りがあった場合の影響
- 導入・検証に必要な手間
そのうえで、個人情報や機密情報をどう扱うか、高い正確性が必要ではないか、誤りをきちんと確認できるかも確認します。
最初に選びたいのは、最も大きな効果が期待できそうな業務とは限りません。
小さな範囲から試せて、その結果が良かったのか悪かったのかを自分たちで確認しやすい1件を選んでみてください。
Webサイト運用でAIと人の役割分担を整理したい方へ
Webサイトのお知らせ作成や更新、問い合わせ対応などで、AIに任せる工程と人が判断する工程を自社だけでは整理しにくい場合は、オレインデザインへご相談ください。
ご相談時には、現在の作業の流れ、困っている工程、扱う情報、内容を確認・承認・公開する担当者を、分かる範囲でお知らせいただけると状況を整理しやすくなります。
AI導入全般を専門に支援するサービスではありません。Webサイト運用に関係するご相談内容を確認したうえで、AIを使わない方法や既存機能の活用も含め、対応できる範囲をご案内します。
お問い合わせフォームから、現在の状況をお知らせください。














